大分県ソーシャルフットボール協会指定強化選手・立野大河のコラム(仮)

大分県ソーシャルフットボール協会指定強化選手《TAIGA.》こと、立野大河選手の連載コラムです


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【連載第10回】社会人経験で得たもの(2024年8月22日更新)

こんにちは。こんばんは。TAIGA.です。
今回は、「社会人経験で得たもの」というテーマでお話しします。
僕は、約三年前に社会人として働いていた経験があります。以前の記事では、社会人時代に難しかったことやうまくいかなかったことについて、少しお話しをしました。
今回は、社会人時代に実際に社会に出たことによって、プラスになったこと、今の人生に活かすことができていることについてお話しします。

なぜこのテーマを話そうと思ったか

まず、なぜこのテーマをお話ししようと思ったかの経緯をお話しします。
今現在、僕は病院のデイケアに参加しつつ、大分県のB型作業所にて、コラムを書くお仕事をさせてもらっています。デイケアにて、様々な障がいを持つ人を関わる中で、「TAIGA.さんは仕事していたことがあるんですか?」と聞かれる事が多かったり、実際に社会に出て仕事をするといった経験がない人が、精神障がいを持つ人に多いと感じました。

そこで、僕の実体験とリアルなことをお話しし、「社会の出るとこんなメリットがあるんだ」と感じてほしいと思います。また、今各作業所や障害者雇用にてお仕事をされている方は、ぜひ、今自分がやっている仕事が、今後自分の人生にどう活きてくるのか考えるきっかけにしていただけたらと思います。

スクールソーシャルワーカーという仕事

さて、さっそく僕の社会人時代のお話しをします。僕は、社会人時代、非正規の公務員として、ある自治体に勤めていました。
具体的な職種としては「スクールソーシャルワーカー」です。スクールソーシャルワーカーという職に聞き馴染がない方もいると思いますので、簡単に説明します。

スクールソーシャルワーカーは、社会福祉職であり、児童系の職種になります。必要になる資格は、社会福祉士資格もしくは精神保健福祉士資格になります。もともとはアメリカにて生まれた職種になります。日本ではスクールソーシャルワーカーという職の歴史が浅く、自治体によって募集資格や実際の業務が異なることが特徴です。

スクールソーシャルワーカーは、「問題や課題を抱える児童にアプローチをし、その児童の意見や気持ちを尊重したうえで、児童を取り巻く環境の調整を行い、児童自身が安心安全を感じながら日常生活を送ることができるようにする」といったことを行います。僕が勤めていた自治体では、具体的にどんなことをしていたかというと、

・児童に直接会うこと(家庭訪問や学校で会うなど)
・児童との面談(一緒に遊んだりしながら、児童の意見を引き出す)
・学校訪問
・ケースマネジメント(課題の整理と適切な支援方法の模索)
・各所関係機関への訪問
・ケース会議(学校や家庭、関係機関等との打ち合わせ)
・ケース記録
・講演会等の準備、運営
・子ども食堂(運営もしていたし、児童と一緒に行くこともあった)
・関係機関等へのつなぎや紹介

などです。他にも小さな業務はたくさんありましたが、ぱっと思いつくだけでもこれだけあります。
こうした仕事をしていた中で、様々な課題や困難を抱える子どもたちと出会ってきました。障がい、貧困、虐待、非行、いじめ、不登校、家庭環境の不和など、こうした厳しい環境や状態の中で、必死に生きている子どもたちとの関わりが、今の自分にどのような影響を与えてくれたのか、次でお話しします。

今の人生に活きていること

さて、上記の社会人時代での経験が、どのように今に活きているのか、具体的に挙げてみます。今の僕は子どもと関わることもなくなり、支援する側から支援される側になりました。
ただ、こうした変化はあっても、様々な課題や困難を抱える方との関わりは変わっていません。また、精神疾患やその他障がいがない、いわゆる健常者でも、悩みや苦労、課題や困難を抱えているのが今の日本です。

このコラムを見てくれている人は、健常者や障がい者問わず、今後様々な人間と出会い、コミュニケーションを取り、関わっていくことになると思います。僕の経験や、あなた自身の経験が、今後の人生にどのように活きるのかぜひ考えてみてください。

僕が社会人経験を通して、今の人生に活きていることは以下の通りです。

否定をしない

「否定をしない」ことは、全てのことを否定しないことではありません。
会話やコミュニケーションにおいては、自分軸と他人軸が存在すると思っています。ここでいう「否定をしない」ことは、他人軸の場合になります。

自分軸とは、「自分が主導権のとき」を指します。
例えば、上司や親などに、「これをいついつまでにやってほしい」と言われたとします。自分にとって、それはできることなのか(能力的に可能なことか)、期限までにできるものなのか、これを考えないといけません。この場合は、否定しないことをそのまま行うと、自分の負担になりますし、できないことであれば、周りにも迷惑が掛かります。
自分ができない、やれないことは、きちんと理由をつけて「それはできません」とはっきり伝えましょう。

一方、他人軸とは「他人が主導権のとき」を指します。
相談や会議、日々のコミュニケーションなどです。このとき、否定をしてしまうと、自分の印象が悪くなり、後々不利に働くことになります。
具体的には、他人に「あなたは大事な試合に負けてから本気になるよね」と言われたとします。「それは違います。いつも本気です。あなたこそ自分より上手じゃないのによくそんなことが言えますね。」と返すと、他人との良好な関係を築くことができません。
こういうときは否定せず、見方の角度を変えましょう。「大事な試合だと緊張して、いつもの力が出せないんですよね」「そういうときは、負けると逆にリラックスできるんですよ」などと返せると、他人との関係値も深まり、自分の活動の場が広がりやすくなります。

特に精神疾患を持つ人は、一言二言余計なことを言ってしまう、自分の考え方を曲げることができない傾向にあります。
会話そのものが、自分軸なのか他人軸なのかを考えられると、他人とのコミュニケーションはうまくいきやすいです。

まずは相手の主張から

他人と会話をするとき、自分の話ばかりしてしまう人がいます。「自分はこうしたい」「今日はこんなことがあって、○○と感じた」などです。まずは、会話する相手の主張を聞くようにしましょう。

例えば、食事の話をするときに、自分から「自分はラーメンが好きで、本当は今日ラーメンが食べたかったんだけど、ハンバーグにしたら美味しかった。そういえば、○○ってラーメン屋さんが好きで、そこのチャーシュー麺が、、、」と、一気に話をしても、自分は伝えたいことを伝えられたら満足だと思いますが、聞いている他人は興味のない話を永遠にされて苦痛なだけです。
こういうときは、「今日のご飯何食べた?」と自分から話題を提示し、相手の意見に賛同しながら、自分の話をしていきましょう。

会議や相談ごとでも、これは同じです。自分ができることを話しても、他人のメリットになるとは限りません。他人が何を望んでいるのか、困っているのか明らかにしたうえで、自分には何ができるのかを伝えましょう。

環境を変える

社会人時代、環境調整の仕事をしていました。人間は抱えている困難や課題を、その人自身が解決できなくても、日常生活を送ることはできます。そこで重要になるのが「環境を変える」ことです。

自分ができないことは、できる人にお願いをしてサポートしてもらうだけでも、あなたの人生に関わる人間が増えるので環境は変わります。
もちろん、僕もできないこと苦手なことはたくさんあります。自分で全てを解決しようとはせず、環境を変えたり整えたりしながら、日常生活を送っています。もちろん、環境を変えようと動くのは自分です。

ただ、できないことにチャレンジし続けるよりは、相談できる人に相談をし、解決策や改善策を模索する方が、はるかに解決改善までの時間は短いです。人間そのものを変えるのではなく、取り巻く環境を変えることを意識してみてください。

言葉の裏を考える

例えば、若者がよく使う言葉で「死にたい」があります。
言葉だけ捉えると、緊急性が高く、何とかしないといけないと感じる人は多いのではないでしょうか。

ただ、この言葉の裏にある真意は、全く違うことを指していることがよくあります。
例えば「テストで悪い点を取った」「金がなくなった」「なにかやってみたけど、うまくいかなかった」など、他人にとってマイナスなことが起きたり、マイナスな気持ちになった際に、それを表現する言葉として「死にたい」が使われることがあります。

例えとして「死にたい」という言葉を用いましたが、どんな言葉でも、意図しない真意が裏にはあります。
言葉だけではなく、他人が何を思っているのかを、考えたり直接聞いたりして明らかにしていく、もしくは自分が他人に何か伝える際は、自分の言葉の真意を明確に伝えると、他人の心に残りやすいです。
言葉そのものに左右されないと、自分の精神も左右されづらくなるのでおすすめです。

その人軸で掘り下げる

困っていることや、夢、理想は、誰にでもあると思います。ただ、その解決策がわからないこともよくあります。漠然と思っていることはあるけど、何をしたらいいかわからない、そんなときは「その人軸で掘り下げる」と具体的なことがわかってきます。

これは、自分軸でも他人軸でも同じです。何か漠然としたことを考えている人に対して(自分だったら自分に対して)「○○はどう思う?」「○○はどうしたい?」と質問し、出た答えにまた同じ質問を繰り返していきます。○○には、他人もしくは自分が入ります。
こうして掘り下げていくことで、漠然としていたことが段々と具体的になり、今何をしなければならないのかが見えてきます。

僕は、社会人時代に、先輩にこれを散々されてきました。
結構大変ですが、効果は絶大にあります。

リスクマネジメント

ここでの「リスクマネジメント」とは、「考え得る中で、一番良くないことが起きるという想定」です。
社会人時代、子どもたちと関わっていた中で、このリスクマネジメントはとても意識していました。
そして、リスクマネジメントをすることで、最悪な結果を起こさないための行動を意識できるようになります。

これは、自分の人生にも同じことが言えます。
自分の人生の決定権は、必ず自分にあります。自分が生きていく中で、また何か行動するうえで、どういったことが自分にとって最悪な結果になるか考えてみましょう。その行動だけでもいいですし、人生という長い目で見てもいいです。

僕の話をすると、僕にとっての一番起きてほしくないことは「人間の死」です。
自分に当てはめれば、自分がやりたいと思っていたことができないまま死ぬこと、他人に当てはめれば、楽しい時間を一回でも多く過ごせないまま死ぬことです。

だからこそ、自分がやりたい事を探し、それを実行し、友達等に割く時間を考えて行動しています。後悔しないためにも大事なことだと思っています。

活躍するという概念

「活躍をする」という言葉に対して、どんなことを思い浮かべますか?
大体の人が、「その人間が所属するグループや社会の中で、一番のなにかしらを行うこと」と想像すると思います。
僕も昔はそういった考えでした。
しかし、社会人時代、実際に子どもたちと関わり、子どもたちの成長を見てきた中で、この考え方は大きく変わりました。

具体的な話をすると、居場所事業(学校の代わりや、放課後に子どもたちが過ごす場所)をやっていた際、初めて参加する子どもをたくさん見てきました。
新しい環境、知らない人たちがいる中で、初めて参加する子どもたちは誰しもが緊張し、自分を出せないでいました。「自分は本当にこの場所に居てもいいのか」という葛藤もあったと思います。

そこで活躍したのは、今まで来続けている子どもたちの言動や行動でした。自分がやりたいことを黙々としたり、カードゲーム等みんなでやるゲームに、初めて参加した子を誘ったりなどです。
これらは、何も特別なことをしたわけではありません。一番になったわけでもありません。しかしながら、そういった活躍により、居場所に初めて参加した子どもたちが継続して参加することにつながったのです。

ソーシャルフットボールでも同じことが言えます。
自分でゴールを決める、無失点に抑える、いいパスを出す、ドリブルで相手をかわす、こういったことだけが「活躍」ではありません。アシストや、ブロック、動き出し、声出し、スプリントなど、小さな行動が結果的にチームの勝利につながり、それらや立派な活躍と言えると、僕は思っています。

派手なことだけでなく、自分が出来る小さなことが、チームや会社、社会や他人にいい影響を及ぼすと、それは立派な「活躍」と言えるでしょう。

困難や課題の本質

僕の困難や課題を具体例として話します。僕は、お金の管理が出来ません。
障害年金等が入ると、2週間くらいで使い切ってしまいます。障害年金は2ヶ月分を偶数月に支給する制度なので、1か月半はお金がない状態で生活せざるを得ない状況になってしまいます。
このことは、社会人になってからずっと課題でした。

要するに、「手取りとしてもらっている金額以上を使おうとする」ということです。
果たして、この課題の本質はどこにあるのでしょうか。

僕は、双極性障害(躁鬱)とADHDの診断をうけています。
躁状態になれば、自分が大きくなった気がして、態度や行動がいつもよりも大きくなります。
またADHDだと、多動なので家にこもっていることが出来ず、外に出かけてしまう結果、どこかでお金を使ってしまいます。

こうした「精神疾患」が、お金の管理が出来ないという課題の根底にあるのでしょうか。
もちろんそれもあると思いますが、僕は子どもの頃の教育が大きな原因になっていると考えます。

僕が子どものころ、お小遣い制がありませんでした。その代わり、何かお金が必要になるときは、親にそれを伝えて、お金を出してもらっていました。特に友達等と遊ぶときはお金に困ることはありませんでした。

ここに、今の課題の本質があると考えています。
つまり、「決められた期間の中で、決められた金額での生活を練習する機会がなかった」ということです。1か月3000円や5000円で生活をすることをやっていれば、もしかしたら今の課題はなかったかもしれません。

このように、自分や他人が抱える課題や困難の本質(原因)は、個人に由来するものだけではないかもしれないということです。ここが考えられるようになると、今抱えている課題や困難の解決や改善のために、失敗してもいいから自分は何が出来るのかを、より具体的に考えることはできると思います。

マンパワー

マンパワーとは、「人の力」です。
具体的な話をすると、僕がスクールソーシャルワーカーをしていた時期、僕の先輩方は9人いたので、僕含めて10人で活動していました。それでも、対応件数の総数に対してスクールソーシャルワーカーの人数が足りず、1人あたり30件から50件ほどケースを抱えていました。

そういった中で、全てのケースに対して平等に時間を割くことは不可能でした。なので、緊急性が高いケースや、ライフステージが変わるタイミングなど、様々な基準でケースの優先度を設定し動いていました。

なにを伝えたかったかというと、「支援される側は、支援する側が100%自分に対してエネルギーを注げないことを理解しないといけない」ということです。
特に精神科は、初診や再診の時間が決められており、支援される側の話を全て聞くことが出来ません。よく、口コミにて「ここの先生は全く話を聞いてくれなかった」と書き込まれているのを目にしますが、それが当たり前なのです。支援される側が支援する側のマンパワーをある程度把握しておくことは、自分ががっかりすることを防ぐことができます。

感情の共有

感情の共有は、人間関係を構築する中で最初に行うべきポイントです。特にポジティブな感情の共有をしましょう。
「楽しい、嬉しい、面白い、おいしい」などです。そのためには、共感する力が必要になります。共感することで、相手は「自分のことを想ってくれている」「自分にとってこの人は害がない」と思ってもらえるようになります。

社会人時代、子どもたちと関わる中で、この「共感」と「感情の共有」は大切にしていました。
子どもから「もうこの人とは会いたくない」と思われたら、その時点で仕事できなくなってしまうので、いかに自分が子どもにとって敵にならないか、また子ども自身が自分の意見を言えるようになるかは考えて仕事をしていました。

成功体験の積み重ね

社会人時代、子どもと関わる中で、圧倒的に感じていたのは「成功体験の積み重ねが全くない」ことです。これは、精神疾患を抱える人も大きくあてはまると思います。
仕事ができない、生活ができない、数字の管理ができない、楽しかったことができない、他人とうまく関わることができないなど、こうした社会生活上の「障がい」を抱えていると、自分に自信が持てなくなり、人生そのものを諦めてしまいます。

大きな成功をしなくていいです。生活を送る中で、小さな成功はたくさんあります。昨日できなかったことが、今日できたりもします。そのことを、紙に書きだしたりして、自分をほめてあげてください。そうした小さな積み重ねが、のちに自分を大きく変える財産になります。そんな子どもたちをたくさん見てきました。



さて、今回は、「社会人経験で得たもの」というテーマでお話ししました。
ぜひ、みなさんも自分を振り返ったりしながら、過去の出来事が今にどう活きているのかを考えてみてください。また、何か悩んでたりする人は、僕が紹介したことを一つでも意識して、生活してみてください。

次回は、「ソーシャルフットボールと精神障がい」というテーマでお話しします。

それでは、また✋

TAIGA.

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